新規事業の撤退基準 適切な撤退基準の作り方を解説
- プロ アマ
- 2024年10月5日
- 読了時間: 12分
新しい事業の柱を創出するため、新規事業の立ち上げが活発に行われています。新規事業への挑戦は、企業の成長と継続のための重要な取り組みです。しかし、残念ながらすべての事業が成功するわけではありません。
大企業の新規事業立ち上げに至る確立は約45%、そのうち累損解消に至る確立は17%、中核事業にまで育つ確立は4%という調査結果もあります。このデータは、新規事業を成功に導くことがいかに難しいかを示しています。
この記事では、新規事業の撤退を検討する際の判断基準や事例について解説していきます。新規事業の撤退は難しい判断ですが、適切なタイミングや方法で進めることで、既存のビジネスや事業の未来に与える影響を最小限に抑え、次のステップに進むための参考にしていただければ幸いです。
新規事業が撤退する主な理由

「事業撤退」とは、市場において優位性を失った事業から手を引くことを指します。
新規事業の撤退は、ようやく立ち上げたものであるからこそ、さまざまな背景があって行われるものです。
では、新規事業を撤退する主な理由とは、どのようなものなのでしょうか。
費用対効果が見込めない
一定期間が過ぎても新規事業が十分な利益を生み出せない場合、その事業を維持するメリットはありません。
新規事業を推進する上で、投下したコストや時間に見合う利益を生み出せず、経営が悪化することは、事業撤退の理由の一つです。
実際に、投下した時間やコストが想定より膨大である場合、投入したリソースと収益のバランスが取れない事業は、継続しても経営上の負担が増えるばかりです。そのため、撤退を判断することになります。
債務超過が解消できない
債務超過とは、資産よりも負債が上回り、所有する資産をすべて現金化しても債務を支払いきれない状態を指します。
立ち上げた新規事業が巨額の赤字や負債を出し続けると、利益や売上が見込めず、事業を中止せざるを得ないことがあります。
巨額の赤字や負債を出し続けている事業は、今後も売上や利益を見込めない可能性が高いため、撤退する判断が適切だと言えるでしょう。
競合他社の台頭
市場において、同業種の競合他社が台頭し、競争環境が激化した結果、自社の事業が衰退することもあります。
このような状況では、自社の事業が競合他社と比較してどのように差別化できるかや、市場への参入方法を再評価する必要があります。
もし勝つ見込みがないと判断された場合、撤退を決断することになるでしょう。
経済環境の変化
経済状況の悪化により、消費者の購買力が低下し、市場が縮小する場合、新規事業は大きな影響を受けます。
そのため、市場の需要や競合状況を分析し、将来の市場規模や需要の拡大の見通しを慎重に評価することが重要です。
こうした評価が、新規事業の継続や撤退を判断する際の鍵となります。
マーケティングのミス
新規事業の立ち上げにおいて、マーケティングは欠かせません。しかし、マーケティングの仕組みがしっかりと作り上げられていないと、事業の失敗につながります。
例えば、次のような問題が考えられます。
●市場ニーズの把握が不十分
●自社の情報発信が不十分
●自社の強みを活かせる事業の見極めが不十分
●マーケティング戦略における情報戦略の立案、実行、検証、フィードバックなど、マーケティングの仕組みが不十分
このように、マーケティング力の欠如が新規事業の撤退の理由となることもあります。
新規事業における撤退基準の重要性

新規事業の撤退基準を定めることは、企業の持続的成長と競争力維持のための重要な経営判断です。新規事業の立ち上げには、多くの企業資源が投入されています。
そのため、事前に撤退基準を決めておくことで、資源を適切に配分し、無駄を最小限に抑えることが可能です。
また、「どう撤退するか」も非常に重要です。適切なタイミングや方法を選ばなければ、撤退後のビジネスへの影響が計り知れないものとなる可能性があります。
事業撤退のタイミングを逃さない
新規事業からの撤退もまた、正確なタイミングが求められます。撤退が早すぎると、事業の可能性を逸するリスクがあり、遅すぎると余計なコストやリソースの損失を招く可能性があります。
そのため、事業のKPIやPL、市場の状況を常にモニタリングし、適切なタイミングで撤退の判断を行うことが重要です。このような判断が、その後のリカバリー戦略につながり、企業の安定した成長に貢献します。
事業撤退の影響を軽減する
事業の失敗を素早く認識することは、企業の資源を保護する上で重要です。損失を最小限に抑えることで、事業が深刻な赤字や負債に陥る前、または競合他社に市場シェアを奪われる前に、適切な対策を講じることが可能になります。
モチベーションの維持
あらかじめ撤退基準を定めておくことで、やるべきことが明確になります。撤退の基準を決めておいたほうが、背水の陣でモチベーションにつながることもあります。
新規事業撤退の種類

事業撤退には「積極的撤退」と「消極的撤退」の2つのタイプがあります。ここではそれぞれについて説明をしていきます。
積極的撤退/戦略的撤退
事業の撤退はしばしば「失敗」と捉えられがちですが、正確には「戦略的な選択」とも言えます。たとえ現在収益化に成功している事業であっても、競争が激化していたり、コストが高騰していたりする市場では、将来的に赤字に転落する可能性があります。
注目度の高い市場で急速に競合が増加したり、コスト構造が悪化したりする場合、現時点で収益を上げている事業であっても、長期的なリスクを考慮し、敢えて戦略的に手放す判断が求められることがあります。事業領域を最適化するためには、利益を出している事業も含め、適切なタイミングで撤退することが重要です。
このような新たな“選択”を行うことで、不要な資源の浪費を防ぎ、企業の成長を支える他の事業にリソースを集中させることができます。結果として、企業全体の競争力を高め、長期的な成長に繋がるでしょう。
消極的撤退
消極的撤退とは、やむを得ず事業を撤退することを指します。具体的には、赤字や業界の衰退、市場での競合の台頭などの外部要因により、事業を継続することが不可能と判断される場合に行われます。
積極的撤退とは異なり、消極的撤退は計画や準備が不十分なまま、やむを得ず撤退に追い込まれるケースが多いです。事前に十分な戦略を立てる余裕がなく、外部環境に押される形での撤退となるため、企業にとっては非常に厳しい状況となります。
消極的撤退では、合理的な判断が難しくなることが多く、企業は投入した資源に対して損失を覚悟した「損切り」の決断を求められることがあります。このため、資源を適切に割り切り、可能な限り被害を最小限に抑えるための迅速な判断が必要です。
新規事業撤退の判断基準

新規事業の撤退基準は、常にモニタリングができ、客観的で納得感のある判断基準を決めておくことが大切です。判断基準には、客観的なデータの分析と市場理解の両方からの総合的な判断が必要とされます。
定量的な指標の設定
定量的な指標としては、具体的には以下のような指標が挙げられます。
貢献利益
新規事業の撤退基準として、貢献利益は有効な判断材料の一つです。貢献利益とは、「貢献利益 = 売上高 – 変動費 – 直接固定費」で求められる数値です。営業利益が赤字であっても、貢献利益が黒字であれば、将来的に営業利益の黒字化が期待できるため、撤退の判断は慎重に行うべきです。
貢献利益が黒字の場合、売上拡大や直接経費のコスト削減によって営業利益の黒字化が見込めるかどうかを検討します。黒字化の見込みがあるならば、事業を維持し、経営改善に取り組むことが推奨されます。適切な改善策を講じることで、事業の成長が期待できるでしょう。
一方、貢献利益が赤字の場合、これは本業や他部門の利益に悪影響を与えていると判断できます。貢献利益の赤字は、企業全体の倒産リスクを拡大させる可能性があり、事業撤退の重要な判断基準となります。売上拡大やコスト削減の余地がない場合、即時撤退を検討すべきです。
しかし、貢献利益の黒字化の見込みが少しでもある場合には、事業撤退を保留し、経営改善に努めるのも一つの選択肢です。早急に結論を出すのではなく、慎重な判断が求められます。
KPI(達成度)・KGI(重要目標達成度)
KPI(重要業績評価指標)は、新規事業の目的や戦略に基づき、事業の健全性や進行度を数値で示す重要な指標です。これにより、事業がどの程度うまく進んでいるかを客観的に評価することができます。
一方、KGI(重要目標達成指標)は、最終的な目標の達成度合いを示す指標です。KGIは売上高、成約数、利益率など、最終的なゴールを表す具体的な数値であり、事業の成果を総合的に測るために用いられます。
KGIが最終的な目標であるのに対し、KPIはその途中の中間ゴールとも言えます。そのため、事業の進捗を評価する際には、KGIだけでなくKPIも併せて確認することが重要です。これにより、事業が最終的な目標に向かっているかどうかを見極め、事業撤退の判断を下す際に適切な情報が得られます。
PL(投資回収計画)
収益と損失を確認するPL(損益計算書)は、事業の健全性を示す重要な指標です。この情報は、事業の継続が可能かどうかを判断するための基盤となります。PLは、事業が黒字か赤字かを明確にする役割を果たし、経営判断の重要な材料となります。もし事業が赤字の場合、その原因を突き止め、適切な解消策を講じる必要があります。赤字の原因を分析することで、改善策を見出し、事業の立て直しが可能となります。
定性的な指標の設定
定性的な情報の主な例として、「顧客フィードバック」や「市場トレンド」が挙げられます。これらの情報は、数字では表せないものの、事業の方向性や戦略を見直す際に非常に重要な役割を果たします。
市場の成長性、ユーザーニーズの変化、競合他社の参入動向など、様々な要因を常にモニタリングすることが重要です。市場環境がどのように変化しているかを把握することで、競争力を維持し、適切な経営判断を行うことができます。
市場の成長性、顧客ニーズ、技術の進化などを定期的にチェックし、事業立ち上げ時に行った分析を現時点で再度検証することが必要です。これにより、環境の変化が事業にどのような影響を与えているのかを確認し、必要な対応を早めに行うことが可能となります。
新規事業撤退の注意点
事業撤退には多くのステップがあります。不要なコストの増加や関係者とのトラブルを防ぐためには、撤退のスケジュールをしっかりと策定することが重要です。適切なタイミングで撤退を進めるためには、計画的なスケジュール管理が欠かせません。
事業撤退は、ネガティブな話題になりやすい側面があります。そのため、コミュニケーション不足や情報伝達の遅れが不要なトラブルを招く可能性があります。こうしたリスクを未然に防ぐためにも、明確なスケジュールの策定とともに、関係者への適切な情報共有が必要です。
有名企業の撤退基準に関する事例紹介

サイバーエージェント
サイバーエージェントでは、各事業や連結子会社ごとの成長ステージや、将来的な利益規模を基にプロットし、人材を含めた経営資源の最適化や新規事業の創出を促進するための「CAKK制度」を設けています。
また、半期に一度「企業価値向上会議」を開催し、外部環境の変化に応じた事業戦略の見直しや、事業統合・撤退などの判断を行い、持続的な企業価値の向上を目指しています。
このように、同社は柔軟かつ戦略的なアプローチで事業運営を行い、企業価値を最大化する取り組みを推進しています。
リクルート
リクルートでは、40年以上にわたって新規事業立案制度「Ring」を継続し、環境変化を捉えながら、社会に対する価値を追求し続けることに力を入れています。この制度から多くの新規事業が生まれ、新たな事業を生み出す仕組みが築かれています。
さらに、リクルートでは事業化検証に進んだ事業を4つのステップに分け、各ステージごとにニーズや収益性、市場への認知方法、そして投資する価値があるかを慎重に判断します。各ステージには明確な期限が設けられ、基準に達しない場合は撤退するという、厳格な撤退基準を設定しています。
このように、リクルートは常に新たな価値を創造しつつ、リスク管理を徹底することで持続的な成長を図っています。
メルカリ
メルカリでは、新規事業を成功させるために、撤退の意思決定を行う際の明確な指標が必要であると、インタビューで述べています。その基準として、自社の初期の損益計算書(PL)を参考にしているようです。
具体的には、サービス開始後約3カ月の時点で、どのくらいのコストがかかっているか、成長率はどうかを比較して判断しているとのことです。また、新規事業をプロジェクト制にして進行状況を可視化する取り組みも行っているそうです。
このように、メルカリは透明性の高い管理手法と、明確な基準に基づく戦略的な意思決定を通じて、新規事業の成功を目指しています。
ソフトバンク
ソフトバンクでは、新規事業のアイデアを社内外から募集し、アイデア創出から事業化まで、各フェーズで支援を行っています。新規事業案が最終審査を通過すると、約500万円の予算が与えられ、社員はソフトバンク傘下の「ソフトバンクイノベンチャー」から仮説の検証や進捗管理などのサポートを受けながら、1年以内での事業化を目指します。
このプロセスの中で、事業化に向けた各フェーズには明確な期限が設けられており、基準をクリアできなければ撤退するという厳格な方針が適用されます。
このように、ソフトバンクは計画的かつ効率的な支援体制を整え、新規事業の成功と適切なリスク管理を両立させています。
まとめ
新規事業の撤退基準を適切に設定するためには、定量的な指標(売上、コスト、成長率など)と定性的な指標(市場の反応、顧客のフィードバック、競合状況など)を総合的に判断することが重要です。事業の撤退は難しい決断ですが、適切なタイミングや方法で行うことで、その過程で得た経験を次の成長の糧にすることができます。
そのため、事業を開始する前に撤退基準を明確に設定し、常に準備を整えておくことが成功の鍵となります。
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